オモチャ会社に心をのっとられるぞ

顔がない女の子が箱の中にいて
「つとむくん、どおしたの、耳から白くてべたべたした液体がたれているよ」

「あぁ、これバニラアイスだ、きっと僕が作ったんだ」
「目が混濁して黒目と白目が混じり合ってる」
「バームクーヘンだ、これは、おいしいんだよ」
「舌が垂れて長く伸びてる、今にもちぎれそうなほどに」
「これは、なんだろう、教室だよ、それから、サイコキネシスで歯が折れる音?違う、よくわからない、たぶんアップルパイだ」

「こわくないの」
「なにが怖い?全然、怖くないんだよ、最初だけ、最初の合図以外みんな甘いお菓子だ」
「つとむくん最近なにやってるの」
「お菓子を作ってる、僕の部屋にきてくれる人のために」
「君の部屋に人が来るの?」
「昔ね、1度だけ、若い兄弟がきてくれたことがあるんだ、彼ら、今も生きているとしたらいくつぐらいになるんだろう、最初は、そいつらと何にもしゃべりたくなかったんだ、だからお菓子を作っていたんだけど、どうしちゃったんだろう?僕はその子達にまた、僕の作った焼きたてのアップルパイを食べさせたい、なんて思っているんだよ、」
「生きてて楽しい?」
「勘違いしないでくれ、これは絶望じゃない、帰ってくれ、ひどい事しか今はいえない、ごめん、なにかを絶望だと勘違いしたいなら小説でも読んでいてくれ」

秋の午後に、気が滅入るような日記をロイヤルミルクティーとともに

僕は調子に乗った悪いつとむだった、意識を失って僕が倒れたあの時
悪いつとむの悪いからだを、あの子が抱えて、暗い森の中を走り
小さな泉のほとりまできて、あの子は僕の体をそこに放り投げ、僕は沈んだ

すると、そこから神様が現われ、あの子に
「あなたが落としたのは悪いつとむですか、普通のつとむですか、良いつとむですか」と聞いた
あの子は、
「私が落としたのは悪いつとむです、ニキビだらけの太ったキモオタです、でも、私はつとむが好きです、
ごめんなさい、と死ね、としかしゃべれない、私が落としたのは、その、悪いつとむです」といった

それを聞いた神様はニッコリ微笑んで
「あなたはとても正直な人です、褒美としてこの良いつとむをあげましょう」と言った

泉の中からは福山雅治似のお調子者のつとむが、ゆっくりと這い出てきて、あの子は立ちすくんだ
良いつとむはあの子の肩を叩き、あの子はその手を振り払い
良いつとむは少し困った表情をして、泣き出したあの子のそばに立っていた、良いつとむは本当に永遠によかった

僕はといえば泉の底で目を閉じながら、ごめんなさい、や死ね、と呟いていた
僕はもう永遠に動けなかった

4次元が危険です

僕が素直な事を書いてしまったのもすべて4次元の侵略です、僕たちはダビンチの最後の晩餐に勝手に噴出しを書き加えてイエスに好きな言葉をしゃべらせる事ができます、それは面白いボケです、つまり2次元を好きなように操れる3次元の僕たちも4次元に好きなように操られてしまいます、僕が高校いってないのも3年も部屋から出なかったのもすべて4次元のせいです、あいつらは面白半分で人のことをいじります、僕は素直な事を喋らされてしまいました、4次元の脅迫です、僕たちは素直な事をしゃべってしまうと自分の身が守れません、証拠はいくつもあります、まず第一になんかわかんない人がこないだ街ですれ違いざま、僕に話し掛けてきた、「よぉ、俺は芸術家だ、愛とか希望とか風とかそういう、おまえのパパやママも含めてみんな知ってるけど、目に見えないものがあるだろう?そういうものをそのまま、目に見える形にするのが俺の芸術ってわけさ」パパとママが愛とか希望とかそういうものしか知らないとしたら、4次元を知らないとしたらそれはとても危険でしょう、芸術家はテレパシーを使う方法を一つずつ消していく、つまり4次元の手先です、メトロ・ゴールドウィン・メイヤー買収しましたのも証拠の一つです、3回以上人と話してしまったらテレパシーの使い方忘れます、僕はもう2回も人と話しました、怖いです、みんな泣きます、小学生の頃に燃やしたエロ本だけが思い出されます、僕は小学校の時に4次元に聞こえないように人と話す方法(テレパシーです)を知らず知らずのうちに燃やしてしまっていました、 エロBOOKSの中の女の人はテレパシーの形の一つです、僕は頑張ろうよと言います、それは4次元には聞こえます、素直な事を書いてしまうのが辛いです、とても辛いです、血を吐いてしまいます、針金を左手のどうう脈に差込・・・ 蛙の背中に差込・・・

頭がおかしくならないように雲をみてた、雲にはなにひとつ伝える必要がなかった、頭がおかしくならないように雲をみてた、真っ暗な部屋を出て自転車をこいで、少年院の脇で頭がおかしくならないように雲をみてた、そんな日が最初は1ヶ月に1日で、次は1ヶ月に2日で、だんだん増えていって、僕は自分のことを本気でカスだと信じ込んでいて、ほかの人がたとえカスだとしてもその事にはまるで興味がなく、もっと人から嫌われよう、嫌われよう、面白い嫌われ方もっとないかな、一人になるために、と思っていて、だから
渡せなかった手紙と、渡せなかった盗聴器入りのぬいぐるみと、渡す人も渡す必要もなかったけどそこにあった、うまく言えなかった言葉が僕を笑顔にし、うまく伝えられなかった言葉は殴られている子供達に見えた、詩にして文字にしたなら、とりあえず、目でみたものを信じられたと言う事なんだ
と、僕の日記はずっとそこで止まっていて

雲がバラバラとなんの脈絡もなく落ちてきて、一人一人の人間になって、僕はもう空が見えない、頭がおかしくなると言う事もないまま、僕はひとつひとつを見なくちゃダメなんだ

女のこめかみに拳銃を当てておっぱい揉みしだいて、拳銃で小指1本だけ撃って、もう約束ができない、船になっておもう存分泳いで、僕たちだ、といえるものを目で見えないほど遠く耳で聞こえないほど遠く声が届かないほど遠くまで

さようならに触れるために

1学期は「矢島」という苗字だったのに、
夏休みがあけて「田辺」という苗字になっていた矢島君と、朝起きて家の前で合流する

今日は池があるかな?と僕が聞いて、矢島君は「絶対あるよ」と言った

毎日同じ通学路を通っているのに、池があったりなかったりする、自動販売機があったりなかったり、綺麗な花が咲いていたりする

彼は矢島君だったり田辺君だったりする

飛行機のプラモデルも組み立てられなかったように、小学生の僕らにはさようならの場面も作れなかった
ずっと僕のこと忘れないで、という言葉の意味もよく知らないまま、小学2年生の時に僕はうまれて初めて、ずっと僕のこと忘れないで、といい、
それから今まで一度もそんなことを言わずに10年間生きてきて、僕はいまもその言葉の意味が全然わからないんだ

小学校に隣接する家の塀の壁をよじ登って、ザクロの実をとって食って、その後どうしたらいいのかわからなくって、目の前に揺れるブランコが見えているのに、僕たちの手2つともザクロの汁でピンク色に汚れていて、それを校庭の砂にこすりつけて、ジャングルジムのてっぺんでションベンをし、ションベンが棒にあたってキラキラと飛び散って、畑のキャベツに爆竹を仕掛けて片っ端から爆破し、僕はランドセルの中に入っていたアクションコミックスを矢島君に渡す、耳の中では飛行機の轟音と聖歌隊のゴスペルと赤ん坊の泣き声が全部いっぺんに流れていて、僕たちは、さようなら、だっていうのに、誰も死ななかった

これは綺麗な花だからふみつぶしてはいけないというルールは誰が考えたんだろう、どうしてこんなところに池があるんだろう?その脇に綺麗な花が植えてあって、どうしてここに小学校が建っていて、小学校と僕の家が道路や空や下水道で繋がっていて、僕らが星に願いをかけるのはそれがずっと遠くにあるからで、この街を組み立てた人は、ずっと僕のこと忘れないで、と言ったことがあるのかないのか、わからなくって、さようなら、のあとに、消えろ、僕たちの見た事のない池も花もこの街も

カットマン

この世界はイスが見ている夢だ
僕がイスにそう語りかけるとき
僕は あるいは誰も そのイスに座れなくなってしまう

僕の顔も君の顔も
そこに見えているのだからあるはずのものが
やっぱりなにかかけていて
お互いの顔を見ると切なくなったりする

そういったことが
世界中に音もなくあふれて広がって
視力だけ 
花のように束ねたら
僕たちの変わらなかったものが
悲しそうに機能を失っている

僕たちはきっと、そこにいるだけで部屋になる
座れないイスも
僕の顔も君の顔もその中
どうしようもなくわきだす さまざまな想いを
さまざまな方法でさまざまな言語で
どうか伝わらないようにと画策する

肉体、についている口が
願望を3回となえると
すでに それが もう達成されたあとの世界に
到達していて
肉体、についている目がぱちくりする

スィッチを押して
最初からついていなかった照明を消す
耳に聞こえない音を必死でイメージするように
君が生まれる前から
君の事を
知っている人がいたんだ

だから、
なにもかも
なにもかもがどれだけみじかくっても
その中で、きっと詩を3つかける
さようならと
さようならと
もうひとつを
どうか、誰にも伝わらないように

泣いた童貞

昨日の深夜、童貞を捨てた僕がいまだに童貞の僕の家を訪ねてきた。外は雨で、童貞を捨てた僕はびしょ濡れになって呼び鈴を押し続けた。童貞の僕は童貞を捨てた僕を部屋にいれお茶を出してあげたけれど、童貞を捨てた僕は終始無言で、童貞の僕は自分のこと、テレビのこと、最近読んだ本のこと、なんかを必死でしゃべった。しゃべる事がまったくなくなったとき、はじめて、童貞の僕は童貞を捨てた僕の顔をよく見た。童貞を捨てた僕は何かに耐えているかのような眼で童貞の僕をみつめ、最後に手を差し出し、童貞の僕は童貞を捨てた僕と握手をした。童貞を捨てた僕が部屋から出る時、童貞の僕は近くにあった紙の切れ端にボールペンでなにか書いて渡した、童貞を捨てた僕の姿はすぐ暗闇の中に見えなくなった。
童貞の僕が渡した紙にはこう書いてあった。

「君が捨てた童貞はこっちで笑顔で暮らしている、僕はうまくやっている、だから大丈夫、心配しないで」