泣いた童貞

昨日の深夜、童貞を捨てた僕がいまだに童貞の僕の家を訪ねてきた。外は雨で、童貞を捨てた僕はびしょ濡れになって呼び鈴を押し続けた。童貞の僕は童貞を捨てた僕を部屋にいれお茶を出してあげたけれど、童貞を捨てた僕は終始無言で、童貞の僕は自分のこと、テレビのこと、最近読んだ本のこと、なんかを必死でしゃべった。しゃべる事がまったくなくなったとき、はじめて、童貞の僕は童貞を捨てた僕の顔をよく見た。童貞を捨てた僕は何かに耐えているかのような眼で童貞の僕をみつめ、最後に手を差し出し、童貞の僕は童貞を捨てた僕と握手をした。童貞を捨てた僕が部屋から出る時、童貞の僕は近くにあった紙の切れ端にボールペンでなにか書いて渡した、童貞を捨てた僕の姿はすぐ暗闇の中に見えなくなった。
童貞の僕が渡した紙にはこう書いてあった。

「君が捨てた童貞はこっちで笑顔で暮らしている、僕はうまくやっている、だから大丈夫、心配しないで」