お家に帰ろう

そういえば、家に帰りたかったんだった、3年前に行方不明になったあの子が交差点の真ん中で、月を見上げて涎をたらしながら立っているのを見た、僕ずっと見ていて、あの子はいつのまにか人ごみに消え、また消えた、
ずいぶんずいぶん遠くの街をさまよっていたんだろうな
その3年間のことは、誰にもいわない、きっと行方不明の僕らが全員心にしまって誰にも言わないままのこと、遊んでいるはずだったのにいつのまにか、たった一人でドロだらけになっている、子供のころ、迷子になるのは本当は少し楽しかった、でもそれからずっとずっと迷って、その間にいつのまにか家が取り壊されて、3回目の夕暮れが消えたとき、きっとありきたりな病気になった
この部屋には僕の本棚と僕の窓と僕のベッドと僕の蛍光灯が風に揺れているけどここは僕の家じゃない、
ママ、僕はお酒を飲まないと眠れなくなったよ、パパ、今日だけは僕をしからないで、病院の中にいるみんな、少年院にいるみんな、君の心の中には窓がある、うつむいているとき僕たちは、黙ってその窓から外を見ている、なんの表情もなく静かに、けれど確かな足取りで、ゆっくりと、お家に帰ろう、みんなそっと抜け出して小さな明かりの点々を一つずつたずねていこう、暗い森の中にうち捨てられたダイニングテーブルを拾って、湖の暗い底に沈んだテレビを拾って、ゴミ捨て場の黒いビニールの中でぼろぼろになった小さなお人形を拾って、ママもパパも行方不明だけれど、きっと僕らの家の廃墟に、ポツポツとみんな集まって、深く頭をたれたまま、お家に帰ろう、お家に帰ろう、ドアがゆっくりと閉めまったのなら、一番暗い今夜だけは、僕らの窓に暖かい湯気が立つ