ユウコちゃん(仮名)と

いいかい?
一度しかいわないからちゃんと聞くんだよ

今、僕は君に背を向けソファーで眠ったフリをしている、オーディオもつけたままでさっきから同じ曲を流し続けている、きっと君が立てるかすかな物音を消すぐらいには役に立つだろう、君は何も考えなくていい、今夜、君の腕を縛っているロープはすこしだけゆるんでいる、なぜなのかはわからない、まるで小さな女の子でも頑張ればほどけるぐらいに、そうして自由になった両手でゆっくりと箱のふたを押すんだ、なるべく音を立てないように、まぶしい電球の明かりで君は目を閉じるだろう、でもすぐ慣れる、頭の中で10数えてゆっくり目をあければもう大丈夫だ、静かに箱から抜け出し、君は部屋のドアまで最短のルートを通らなきゃいけない、床に転がっている皿やコップをうっかり踏んだらダメだ、さすがの僕も振り返らざるをえなくなる、それから、このソファーの後ろを通る時は身をかがめて、僕の目の前には鏡があってこの鏡はよく映る、君の手を突然つかんでしまう、慎重に歩いていくんだ、そうしたら、もうドアは目の前だ、鍵はきっと開いてる、絶対に振り返るな、理由はわかっているだろう、振り返ったら僕と目があう、君を地の果てまで追う、そんな事はないと思うけれど、一度でも振り返ったら君はまた箱の中だ

そうしていつか、何年かかるかわからないけど、君に笑顔が戻った時、君の笑顔がただの筋肉の痙攣じゃなくなった時、君は君を理解してくれる人と遊園地に行けばいい、手をつないで、それはきっと静かなものになると思う、ジェットコースターにのってもバイキングに乗っても静かなあたたかいものが揺れているのを君はきっと感じるだろう、僕も遊園地には一度だけいったことがある、夏の終わりの夕暮れに、たしか、右目だった、右目にだけコンタクトをはめて遊園地を歩いたらさぁ、左目はぼやけてて右目だけくっきりしててなんかすげぇの、池とかなんかそういうキラキラしたもの見ると最高なんだ、右目ですっごい光が凝縮してキラキラしてて左目で光がぼやけて拡散してさぁ、それが頭の中で一つの風景になって重なって、すごくいいんだ、どんな絵画よりも綺麗なんだよ、僕の思い出の中で唯一綺麗なのがそれなんだ、君にそれを、あげるよ、