僕は拒否する

僕は普通の男の子です。いや、普通の男の子より少しすぐれているかもしれません。だから、こないだも散歩していて分かれ道があって「エリート」と「ボンクラ」という看板が立っていた時も僕は当然エリートのほうの道を選んで進んでいきました。そこはまさにエリートにふさわしい道でした。自動販売機で売られているジュースにはみんな「おいしい」と書かれているし、道を走る車にはみんな「早い」、店に並んだTシャツには「カッコイイ」とプリントされています。なるほど、さすがにこれは「エリート」にふさわしい、と満足しながら僕が進んでいくと、路地裏から僕を手招きしている老人が見えます。その老人はいかにもおうちがなさそうな格好をしていて不潔で臭くて死んだほうがよくて、僕が、ここはおじいちゃんの来るような所じゃないよ、と注意してやろうと近づくと、老人は筆ペンを取り出し、僕に読めない文字で僕の心に何か書き込みました。僕は恐怖で動けず、そのすきに老人はどこかへ消えてしまいました。あらためて周りを見回すと僕は奇妙な気持ちになりました。僕は知らないうちに独り言を呟きながら近くにあった自動販売機に近づいていきます。「美味しいけれどすっぱくない、美味しいけれど黄色くない」そういうことを呟きながら僕は自動販売機を殴りつけています。殴り続けています。「美味しいけれど嘘つきだ、美味しいけれど平気で裏切る、エリートだけど学校行かない、エリートだけどオナニーばかり、エリートだけど友達いない…」最後はもう、叫ぶような調子で自動販売機を殴りつけたとき、とつぜん、ピィー、という音が自動販売機から鳴り響き、ルーレットが回りはじめ、「あたり」とかかれたランプがピカピカ点滅を始めました。機械のカン高い声でおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおmでとうおmでとう…と繰り返される中、取り出し口にコトリ、と落ちたものは血のついた包丁でした。