未成年

今度の日曜日 晴れていても もし雨が降っても 君にこの町を案内する
君が昔住んでいて僕が今も住んでいる町
君がいなくなって この町も少しだけ変わってしまった
たとえば 僕が君を待つだろう駅前広場も
(でもけして 大きくは変わっていない 少しだけだ 僕も君もこの町も
 ちょっと見ただけではわからないような ほんの少し)



君が改札から出てくるのを見て 僕は立ち上がり
2人で信号が青になるのを待つんだ
僕がはじめてバイトした喫茶店の脇の路地にはいり
コーヒーの匂いをかぎながら
坂道が多いこの町の最初の坂をくだるだろう
(まず この坂だ 僕はこの坂に誰にもいえないような
 いまでも頭かきむしりたくなるような最低な思い出がある
 この坂の上の僕だ 誰にもいえなかったことは 当然
 君にもいえないこと 後部座席と 僕をはさむ2人
 白い部屋で書かされた自分の名前と住所
 僕は必ず思い出すけれど それを君にいわないだろう)


そうして 坂道をくだりきった場所に中古のレコード屋がある
このレコード屋は僕が中学生のときにできた店で
今はシャッターが閉まっていて その上に張り紙がある
(君の知らない間にできた店が君の知らない間に潰れた
 君にとってこの町を歩くことは嬉しくて楽しいんだ
 僕だってこの町も好きで君のことも大好きだから
 もう半分の この町の悲しいことは君にはしゃべらない
 そんな馬鹿みたいなことは 紙に書くたぐいのことだ)


僕たちは小さな川にかかる橋を渡る
この川の遊歩道をずっとのぼっていけば
大きなきれいな森に辿り着くこと 昔 僕も君も森に辿り着いたこと
僕はそれを小学生のころみた夢の中の出来事だと思っていたこと
(この川は近いうち 埋め立てられて桜並木ができるらしいよ
 桜並木 それは素敵なんだろうか
 この川がなくなって僕はもう一度あの森に辿り着けるだろうか)


あの角を曲がれば 君の住んでいた家が見える
その5軒先に僕の今も住んでいる家
君が小学生のころ 家でクッキーを作っていて
バターがたりなくなって僕の家にもらいにきた
僕はなにを思ったのか バターをすくったスプーンを素のまま渡して
僕はそんな思い出をすっかり忘れていて君にしかられた
(この町のことはもしかしたら君の方が多く知っているのかもしれなくて
 僕はこの町のいろいろなところを案内するだけで
 僕の思い出すことと君の思い出すことはまったく違っていて
 僕は君の話をずっと聞いていたいと思う)


小学生のころ歩いた通学路を 大きくなった僕たちが
小学校にむかってまた歩いていて その途中の市営グラウンド
僕は最近ここでよく 友達と野球をしていて こないだも試合をした
(この町の商店街のおじさんたちとたたかって 僕たちは歯がたたなかった
 ボロ負けの試合のあと コンビニやってるおじさんにコーラをもらって飲んだ
 君が男の子だったら僕は絶対に野球に誘ったのに)


小学校の校門をのりこえて 僕たちはプールの脇にでる
僕はこのプールに釣ってきたザリガニをいれたし お徳用のバブもいれた
放送室の窓から体育倉庫の屋根にむかって飛びおりるのが僕たちの根性だめしだった
あのころ君は違うクラスのやつが好きで
僕は毎日うんこについて考えていた
小学校のころのことを君と話せば
この町に悲しいことなんか何一つないようにみえる
(でも そのあとはこうなんだ 僕は知ってる
 君の知らない いつのまにか
 関くんはカンベツに入り 好きだったジャンプも毎週読めない
 そのことを金子さんはおもしろそうに話して
 星野くんは不登校になって僕たちが思い出さないでいるうちに
 気付けば家が跡形もなく取り壊されていた
 当然の事だけど 僕たちは缶ケリも楽しくなくなった)


僕たちはまた 駅まで戻るあの坂道にでる
この坂道はなんでもないようだけど のぼる時本当はちょっぴりきつくて
僕は汗かきだから けっこう汗をかいてのぼりきる
(でもけして 大きくは変わっていない 少しだけだ 僕も君もこの町も
 ちょっと見ただけではわからないような ほんの少し

 あの白い部屋で書かされた名前と住所と反省文が僕の最初に書いた詩だ
 これからも この町のことでも 僕のことでも 君にいえないことだけが
 いくつも僕にとっての詩となるだろう 僕は詩が大好きだけど でも
 詩なんていつ書いたって 今は書かなくたって どうだっていいんだこんなもの
 書きたいときに書けばいい)


 坂道をのぼり終えたら 駅前広場が見える
 この町の人たちがたくさんいる
 そうして また会う約束をして
 僕と君は 手をふってわかれる